惑星ソラリア
社会的ひきこもりから自由になるための思索と実践の日々
『殺人者のモラル』
『殺人者のモラル』 PN:伊藤 龍一 1999.07.04 1089字
 人を殺してはいけないのは、それが一つの世界を破壊する行ないであるからだ、というテーゼを逆説的に描き出した掌篇です。


殺人者のモラル
伊藤 龍一


 私は自殺志願者だ。だから、同類の気持ちは、良く分かる。

 クライアントは足で探す。ネット? 伝言? そうしたものには興味がない。ゆきずりのバーで、スナックで、若い子なら喫茶店なりファーストフードで、一人で黄昏ている、同じ眼をした人間を見つけるのだ。
 私は三十も半ばのフリーターで、定職にも就かずぼろアパートに住んでいる。実家には勘当されたも同然の境遇で、その日暮らしを続けている。
 いつ死んでもいい。
 フリーターで食って行けるはずもなく、私には副業がある。預金額はそれなりに大きい。
 死にたい人間というのは、どこにでもいるものだ。

 万が一のために、クライアントには嘱託の証明を書かせる。だがその前に、じっくりと話を聞く。クライアントの全人生を、語らせ、死んだら泣くであろう家族や友人や知人の心に思いをめぐらせ、そしてなお死を決意させる。ここで、そうした想像力こそが殺人を防ぐ最大の手立てなどという言説に強烈なアンチテーゼを喰らわせる。
 その人生を最大限に味わい、家族や友人や恋人らの悲嘆を存分に味わい尽くした上で、殺る。
 これが殺人者のモラルだと、私は思う。

 名刺を作るなら「本業:フリーター、副業:嘱託殺人業」とでもなろうか。
 私はある意味で社会に善として貢献していると思う。
 望みを叶えてあげることは、ビジネスの基本だ。
 ましてこの欲望渦巻く高度消費社会では。


 特急の通過駅。今度のクライアントはセーラー服を着た女学生だ。端のホームに佇み、私を待っている合図の小さな反射板を光らせる。監視カメラの死角。私は音もなく背後から近付き、
 突き飛ばす。

 騒ぎになって警察の事情聴取などが始まる前に私はその場から離れる。
 誰が見ても自殺。
 報酬は、クライアントの全財産。今回の仕事で得たそれは少ないが、
 私は満足している。
 他人の死を味わうエクスタシー。
 それだけで、私には最高の報酬となるのだ。
 取り乱す家族や友人の魂に思いを馳せ、
 天国への扉を開いてやった自分自身を褒め讃える。
 その瞬間。
 彼女の死を悼む全ての心たちと交感し、私は射精にも似た絶頂感の中で世界のすべてを祝福する。

 「愛しているよ」


 そして、また、次の仕事を探す。
 いつ死んでもいい。
 充たされた至福感の中で、私はこの言葉を舌にのぼせてその甘さを噛み締める。

 人生とは、素晴らしいものだ。
(了)

1999.07.04

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学



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プロフィール

風早 瑞樹

Author:風早 瑞樹

HN変更しました。
結局はこの名でずっと認知されているので。
(以前の名義は「Amethyst」)

基本:
千葉県在住。1979.1.11生。
職歴なしの社会的ひきこもり
精神科通院中。病名は不明。
基本は「鬱」で「軽躁」「PD」も。
概ね異性愛者(笑)の男性。
県立東○飾高校卒。
某私立大学哲学科4年次中退。
人格の核は、永遠のSF少年。

略歴:
 幼時より母の信仰する某真光系教団の下で育ち、世俗に無関心で「浮いた」少年時代を過ごす。
 運動音痴だが、中学時代は陸上部に所属。
 高校・大学と文芸サークル等で編集長を務めるが、人間関係の問題で辞める。
 高2で信仰と絶縁。精神的危機から哲学を志す。
 漫画を読み始めたのもこの頃。2002年までコミケには毎回参加。
 遊戯王OCGは弟の影響。
 1999年に20歳で自殺する前提で生きてきたが、踏み切れず。
 自暴自棄ながらもある意味活動的に過ごしていたが、
 とある事件をきっかけに、ほぼ寝たきりの毎日となる。

サイト名の由来:
アイザック・アシモフ『ファウンデーションと地球』他より。
惑星ソラリアは、万事をロボットに任せて他人と会う必要がない「ひきこもりの理想郷」。
ただ、現在の私は少々ひきこもりに否定的。
生活リズムを整え、毎日歩くことから、社会参加へ向けて試行錯誤中。
 
■人生を変えた本
『三惑星連合軍』E.E.スミス
『一九八四年』G.オーウェル
『ヴァリス』P.K.ディック
『高校時代』三田誠広
『真夜中の天使』栗本薫

■人生を変えた音楽
'92年紅白(中1当時)の


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