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『樹の上の詩』
『樹の上の詩』 PN:瑞樹 2002.08.25 900字
 弟の夏休みの作文の代筆として冗談で書いたものをもとに、散文詩風掌篇に仕上げた作品です。
 こんな小学生はあり得ない! というご批判は承知しておりますが、そうですね、彼らはヘッセあたりの青春小説の愛読者とでも思って下さい(^^;

樹の上の詩
瑞樹


 少年は、樹の上で口笛を吹いていた。
 空地の大きな樹、その枝の上に身を横たえながら。風に吹かれて、口笛はさえざえと響きわたった。
 気がつくと、友人Sが樹の幹に寄りかかっていた。冷やかすような笑いに、少年は照れた。
「いつから、聴いていたの?」
「君の口笛に誘われたのさ」
 二人は、無言でほほえみかわした。
「僕も、ご一緒していいかい?」Sは少年に問うた。
「いや、僕が下りるよ」そう言って、少年は幹をすべりおりた。
 幹をあいだにはさみ、二人は背中合わせに座った。
「雲が流れる様がきれいだね」少年は言った。
「僕も風に乗ってあの雲たちのように気ままに漂ってみたいよ」Sは遠くを見つめてため息をついた。
「何か悩みごとがあるのかい?」少年は訊いた。
「いや何、ささいなことなんだがね……進路のことさ」
「そうか、君は中学受験をするんだったね」
「ああ、母が教育熱心でね」Sは一息ついて、少年の前に座った。
「そうしたら君とも会えなくなるな」
「……そんな事ないさ! 家は近くなんだし、いつだって会えるじゃないか! ……この空地でだって、」
「無理だよ。通学は夜遅くになるし、とても夕方に遊ぶことなんかできやしない。それにこの空地は……」
 二人は黙りこんだ。そうなのだ、この空地一帯は、整地されて立入禁止になることが決まっている。いずれ、この木も切り倒されるだろう。
「もしかしたら、今日が、この木のそばで話ができる最後の機会かも知れないね……」Sは何かを諦めた者の口調で投げ出すように、言った。
「中学受験か……僕はそんなに頭が良かないからね……」少年は、Sの心の内にどんな言葉なら届くだろうと、必死に模索しながら言葉をさがした。
「でも、大丈夫。僕たちがすごしたこの昼下がりは、きっと……けして消えないはずだから」少年は言った。
 Sは気弱げに苦笑した。
「そうだね、そうだよな……」
 二人はまた黙りこんだ。
「ねえ、もう一度口笛を吹いてくれないか」Sは少年に頼み込んだ。
「いいとも、それで君の心が晴れるなら……」
 空に少年の口笛が吸いこまれてゆく。Sの顔に、おだやかな笑みが広がった。
(了)

2002.08.25

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