『スパイと欲望のスパイラル』 PN:風早 瑞樹 2002.11.23 5623字 HUNTER×HUNTERの同人小説です。ヒソカ×マチ(健全)ですが、微妙にクロロ×マチかも……? 脇役でノブナガも出てきます(^^; 書いたのはG.I.編の頃。まだクリア前だったと思います。 スパイと欲望のスパイラル
風早 瑞樹
「わざわざホームに呼び戻して、何の用ですか? 団長」 流星街に建つ、大きくて古びた、しかし内装は豪華な幻影旅団の本拠地。その一室で、マチが声を荒げた。 「先日は、ヒソカへの伝令、ご苦労だったな、マチ。実は、そのヒソカへのスパイを、マチに頼もうと思ってな」 額に逆十字の刺青をしたオールバックで細身の、団長、と呼ばれた男が答えた。彼の名は、クロロ=ルシルフル。史上最強最悪の盗賊団、幻影旅団のリーダーである。 「なんであんな男に、また私が!」 「だがヒソカのことを一番よく知っているのは、旅団ではマチ、お前だ。引き受けてくれるな?」 「…………! わかりました。引き受けます」 「報酬はそれに見合うだけ用意する。探ってほしい情報は……」
ヒソカの携帯が鳴った。旅団員専用に設定してある着信メロディーを聞き、発信者がマチであることに若干驚きながら、電話をとる。 「ヒソカ?」 「ああ、キミか、マチ。どうしたのかな? ボクと、一緒に食事でもしたい気分になったのかい?」 「軽口はいいから。今、どこにいるの? いつなら、会える?」 「おっと、デートの申し込みか。これは光栄。そうだなァ……天空闘技場は、もう飽きちゃったし、今いる場所はちょっとしたヒミツなんだけど」 「どこの大陸にいるの? そっちまで、アタシが飛ぶよ」 「いやいや、ボクには自家用の飛行船があるからね、そちらが指定した場所に、いつなりと」 「じゃ、ノブナガにも用があるから、Japponにしない?」 「どこだい? そこ」 「小さな島国よ。スシっていう伝統料理がある、くらいしかアタシもよく知らないんだけど」 「スシ……ね。聞いたことがある。いいよ☆ じゃ、そこで」 「詳しい場所は、メールするから。めくって、確かめてくれてもいいけど。じゃ、4日後に」 「OK★ デート、楽しみにしているよ」 「だからデートじゃないって。切るよ」 電話は切れ、ヒソカの携帯から、ツー・ツー・ツーという音が洩れる。ヒソカはよこしまな笑みを湛えてその携帯を隠しにしまった。
(まったく……誘惑して弱点を訊き出せ、なんて、団長もアタシに無茶なことを。アタシが男を誘惑なんて、できるはずないだろっ!) 内心で毒づきながら、マチは待ち合わせのハネダ空港へと向かった。 特徴のある髪型に、手を振る影。ヒソカだ。 「待たせた? 悪かったわね。さ、さっさと空港出ましょ」 「おいおい★ 久々の再会なのに、つれないなァ。デートコースは調べておいたよ☆」 「そ。じゃ、それに乗るわ。アタシはあんたとの一日のためになんか何も用意してなかったからね」 「じゃ、まずお茶でも……?」 「そうね。くだらない遊園地になんて連れて行ったら、ぶん殴るわよ」 「それは怖い★ じゃ、これはとりやめて、と……」 「は? マジでデートのつもり?」 「違うのかい?」 「……」 「おや? 何も言い返さないね☆」 「……まぁ、アンタがそう思いたいなら、それでもいいわ。適当に店に入りましょ」
「ねぇ、あんたのバンジーガムってさぁ、いつごろ習得した訳?」 「キミが念糸を完璧に仕上げたころじゃないかな」 「はぐらかさないで」 「別に秘密でもないけどね。奇術師はそう簡単に自分のコトを語らないのさ★」 「あー、アンタってそういえば奇術師だったわね。最後に興行したのはいつ?」 「キミも見ただろ? 天空闘技場」 「じゃなくて。ザ・ヒソカ・ショーみたいなことはやってないの?」 「昔はやってたけどね。ただの芸人でいるのは飽きちゃったからね★ ボクは人殺しが好きなんだ。だから幻影旅団にも入った訳だし」 「今の潤沢な資金はどう稼いだの? 飛行船も持ってるし、アタシの手術代だって」 「企業秘密★」 「アンタって、ホント話してると苛立たしくなるね」 「そうかい? 楽しいけどなァ、ボクは」 マチは深くため息をついた。 「……まあいいわ。最近、楽しいこと、あった?」 「うん☆ ゴンとのバトル」 「ああ、あれね。ハンター試験の同期、だっけ?」 「そ★ 青い果実はどうしてあんなに欲情をそそるのかねェ」 「ふーん。オトコもオンナもいける口?」 「ああ☆ 狩るにふさわしい獲物に、男女の別はないよ★」 「……アタシも、狩るの?」 「いずれは★」 「アンタなんかに、そう簡単にやられないからね」 「そうかい? キミは全力のボクを見たことがないだろう?」 「まあ……そうだけど」 「団長とのデートも楽しみだなァ」 「ッ……アンタ、団長に勝つ気でいるの?」 「いけないかい? ボクは最強だよ★ ……っと、喋りすぎたかな?」 (そうか……それで団長はアタシを……)マチは心中ひそかに頷いた。 「でも……、団長の実力は知ってるでしょう。バンジーガムだけで勝つつもり?」 「さてね☆」 「アンタに、弱点ってないの?」 「それは、この惚れやすい心さ★」 言うなり、ヒソカはマチの唇を奪った。瞬間的に飛び退く。 「なにすんのさ!」 「挨拶じゃないか☆ 無粋だなァ」 (く〜〜〜っ、これが団長命令じゃなかったら、すぐにでもここから退散するのにっっっ!) 「アンタにはつきあってられないわ。ノブナガの所へ行く」 「へ? 何をしに?☆」 「Kimonoとかいう伝統衣装を、アタシに見せたいらしいわ」 「それは興味深い★ 同行させてもらうよ☆」 「アンタのエスコートなんか、いらないってば!」 「まあまあ、そう言わずに★」 「仕方ない。ついてきてもいいけど、これ以上軽口叩いたら、ぶっとばすわよ」 「それは怖い☆」
ノブナガと連絡をとって、有名なスシ屋の場所を教えてもらうと、そこを待ち合わせ場所にして、ヒソカの携帯に地図をダウンロードさせた。 マチがレンタカーのハンドルを握り、ヒソカはのんびりと助手席に座っていた。「アンタなんかに運転させたら、おっかなくって仕方がない!」というのが、その理由だ。 「おっと☆ そこ右だよ」 「OK。しっかし、なんでこう、一つの都市がこんなにも建物であふれているんだかねぇ」 「小さな島国だから、仕方ないんじゃないの?」 「普通の大きな国の感覚でレンタカー借りちゃったけど、これならタクシーで十分じゃない」 「あー。たしかにそうかもね★ でもキミは、ハンターとしてKimonoとやらに興味があるんだろ?」 「当然よ。あらゆる衣装を集めるのが、アタシのハンター活動だからね」 「へェ。じゃあボクは、何ハンターなんだろ☆」 「青い果実ハンターなんでしょ」 「うふふ★ そうだね。そして、人を、狩る。弱い奴には興味ないんだ☆ 熟れきって腐りかけてる見込みのないハンターも嫌いだね。最強ハンター、ってトコかな☆」 「それ、活動が全然わかんない」 「別にハンターライセンスは便利だから取っただけだもの。いいんだよ★ あっ、そこ左」 「もっと早く言ってよね!」 「悪い悪い☆ でも、キミの反射神経なら十分だったでしょ」 「アンタ、ナビ失格」 「キツイね★ まぁ、そこがキミの魅力なんだけど☆」 「おお、気持ち悪い」 「あ、そろそろ着くよ。看板が見えてきた。駐車場は……あそこか」 「じゃ、入るわよ。ノブナガもう来てるかな」
スシ屋の暖簾をくぐる。ノブナガの、ちょんまげスタイルは、すぐに見て取れた。座敷、とやらに案内される。 「よぉ、ご両人。デートか?」 「冗談! 誰がこんな奴と!」 「ほぉ。じゃぁ、ヒソカはなんでいるんだ?」 「ボクもスシやらキモノやらに興味があってね☆」 「そいつは感心だ。Japponはいいぜ。なんたって、刀の切れ味が世界一だからな」 「それは知らなかったな☆ キミの髪型も、Japponスタイルかい?」 「ああ。伝統にのっとって生きてんだ、俺ぁ」 「へェ。じゃあ、スシとやらを食べてみようかな☆」
「なかなか旨かったね☆ 美食ハンターが贔屓にするのもわかる★」 「アンタ、そんな知り合いいたの?」 「いや? ただのハンター試験官だっただけ☆」 「……苦戦したでしょ」 「秘密★」 「マチは、どうだったい、俺の国の伝統料理は」 「うーん、そうだねェ。生の魚がこうおいしく食べられるのには感心した」 「わかってるじゃねェか。刺身、って食べ方もあるんだぜ」 「アタシは美食ハンターじゃないから、別にいいよ。それより、キモノの最高級店に連れて行って」 「オーライ。俺が運転するぜ?」 「ああ、頼む」
大きな呉服屋に着き、マチはハンターライセンスを提示して、VIPルームに通された。二人もそれに続く。 店の主人が平身低頭して迎える。 「未婚のお嬢さんには、振袖だね。いくつか持ってきますので、しばらくお待ちを」 「あ、それもほしいけど、とりあえず全種類ピックアップして持ってきて。それと、縫い方を教えてほしいんだが」 「了解いたしました。しかし、ハンターさんってのは、えらい金持ちさんなんですなぁ」 「いいから持ってきて」 「これは失礼。では、店の者に取りにゆかせますので、着物の簡単な説明でも」 「ああ、頼む」 横からノブナガが声をかけた。 「最高の伝統品は、十二単、っていうんだぜ。こいつはマチでも着こなしが難しいだろう。ま、着物は全部、着付けを習わなきゃ、着られないものだがな」 「十二単もお買いになさる! これは、これは」 「じゃ、品物が一通り届いたら、レクチャーをお願いするわ」 「それはもちろん」 ……と、ヒソカが言った。 「ボクも、その振袖とやらに合う、男物のKimonoが欲しいな☆」 「どうぞどうぞ。ご用意させます」 「おい。勝手に……」 「いいじゃないか。マチと並んで、写真も撮ってもらいたいな★」 「アンタねぇ……」 「かっかっか。外人の若夫婦ってトコだな」 「ノブナガ、アンタまで!」
試着室から色鮮やかな振袖姿のマチが出てきた。続いて、渋い和服をまとった、ヒソカ。 「お二人とも、お似合いですよ」 「うん☆ 気に入った。さっそく写真を撮ってもらおうかな」 「では、こちらのスタジオへどうぞ」 「アタシはイヤよ」 「いいじゃないか☆ 客観的にKimonoを分析できるだろ? 写真なら」 「うっ……。仕方ないわね」 「よっ! 若夫婦!」 「ノブナガ、あとでぶっ殺すからね!」 「♪」
写真の撮影が終わると、マチはそれはもう熱心に着物の縫い方から、丹物の作り方まで、熟年の店主に習っていた。 ヒソカとノブナガは手持ち無沙汰に、旅団員の噂話や適当な雑談などをして時間をつぶしていたが、夕刻になって、マチに声を掛けた。 「もうこんな時間だよ☆ 今回はその辺にして、続きは明日にしたらどうだい?」 「……そうね。こんなに複雑だとは、思わなかったわ。店主、また明日来るが、いいか?」 「それはもう。こんなにお買い上げいただいたのですから」 「じゃあ、宿泊場所を決めないとね★ それとディナーを☆」 「俺がいい旅館を知ってるぜ?」 「いやいや☆ ボクはもう、ツインのルームをホテルにとってあるんだ★ どうだい? マチ」 「は? バッカじゃないの?」 思わず口をついて言葉が出てしまったが、団長の「誘惑して弱点を訊きだせ」という言葉が頭をよぎった。 「まァまァ、そう言わずに★」 「――――!」 「お二人さんがそうしたいなら、それでもいいぜ? 俺はどっちでもかまわんさ」 (どうしよう……。これを断ったら、団長との約束が果たせない……。でも、でも! コイツとツインルームなんかに入ったら、それこそ……。う〜〜〜ん。……団長にだったら、抱かれてもいいんだけれどな……。コイツにだけは……!) 「それは、迷ってる顔だね?☆ まんざら気がないわけでもないんだ★」 「くっ……!」 マチはついに決心した。 「ノブナガと一緒に行く。まだこの国の伝統をよく知らないし、ホテルなんかより旅館の方がそういうものに触れるチャンスがあるだろうから。あ、でもノブナガ、部屋は別々だよ!」 「それはもちろんさ。まあ、俺はこのまま故郷に帰ってもいいんだが、な」 「いや、運転手として一緒にいてほしい。……そういうわけだから、ヒソカ、諦めな」 「じゃ、ホテルで高級ディナーだけでも★」 「断る!」 「はぁ。つれないなァ。せっかくのデートだったのに」 「だからデートじゃないって何度も言っているだろう!?」 「残念★ じゃあ、またの機会を待つよ」 「そんなもんはないよ! じゃな、ヒソカ。ノブナガ、行こう」 「だってさ。くっくっく。振られちまったなァ、ヒソカ」 「ふふふ。ボクはあきらめないよ★ 獲物をじっと待つのも、狩りの楽しみだからね★ じゃあ、ボクは帰るよ。バイバイ☆」
流星街。幻影旅団のホームに、マチは帰ってきていた。Japponでの滞在を終えて。そして、クロロと向かい合う。 「マチ。ご苦労だったな。それで、成果は」 「弱点は、この惚れやすい心さ、だそうです」 いくらかつっけんどんに、マチは言った。 「そうか。あのヒソカ相手では、その程度が限界だろう。ご苦労だったな、マチ」 「あの……こんなんじゃ、任務を果たしたうちに入らないと思うんですけど。責めないんですか? 団長」 「ヒソカを誘惑して、どこまで行った? 抱かれたのか?」 「いいえ。まさか!」 「なら、いい」 「え……!?」 「オレはマチ、お前が本当にヒソカに惚れていたりはしないか、それも確かめたかったんだよ。よく、耐えて戻ってきたな」 「それって……」 「ああ。オレは、お前が好きなんだ、マチ」 「団長……」 「クロロ、でいい。二人だけのときは」 「急にそんな……呼べません。団長……。でも、アタシも団長が好きです」 「ありがとう。今夜は、二人きりで過ごせるかな?」 「……はい」 「じゃあ、食事にでも行こうか」 と、クロロが髪を下ろした。逆十字の額の刺青を隠し、そうやって髪を下ろすと、クロロはいかにも好青年らしい、さわやかな年相応の顔になった。 「クロロ……。アタシは、その変装用の顔の方が好きかもしれないです」 「そうか。では、出かけよう」 「はい!」
(了) 2002.11.23
テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学
|