惑星ソラリア
社会的ひきこもりから自由になるための思索と実践の日々
小説風日記 『点描』 2814文字
25日の日記です。
何となく小説風に書いてみました(^^;
というより、ひきこもりのノンフィクション手記?
とりあえず「続きを読む」からどうぞ〜♪


点描
水瀬 瑞樹



 フェンスの向こうで、電車がホームに止まり、また走り去ってゆく。
 繰り返されるそれを見ながら、私はバスのロータリーに背を向け、アスファルトに座り込んでいる。
 蓋を開けたウィスキーの小瓶を右に。衝動買いした本で膨れ上がった鞄を左に。
 ラッキーストライクの煙が闇に溶ける。私は飛び込み自殺を思い描く。
(無理だ、こんな各駅停車の駅では。隣駅まで行って、特急の通過を待たないと。だがそれも億劫だな。却下だ)
 あてもなく脱力した体を夜気にさらしたまま、回らない頭で今後の行動を考える。気力も回復しないままに。

 絶望感の正体は解っている。私はここに、新刊の予約のために来た。リストを書き、コピーもとった。しかし書店員と話す前にトイレに寄ったのが運の尽き。
 小用の間に、個室から紛れもない女の喘ぎ声が聞こえてきたのだ。
 そういうプレイがあることは知っていたが、現場に出くわすとなると話は別だ。こういう時、乏しいアダルト知識の中では、男が「声を出すなよ。聞かれたらドアの外でおっちゃんたちがチ×ポ勃たせて順番待ちやで」とか言うことになっている。
 だが、もう一人小用を足している男がいる状況下で、便乗なんかできない。それに最前の台詞はそれを期待してではなく単なる言葉攻めだろう。個室に鍵はかかっているし。おそらくは同意の上のカップルのSEXだ。乱入なんぞしたらこちらが犯罪者だ。
 そそくさとトイレを出て、iPodの音量を最大に上げる。休憩スペースで一息つく。できれば一旦外に出て煙草を吸いたかったが、時間的にもう一つ回る予定の書店とCD屋が閉店間際なので、それもできかねた。
 とりあえず要件を済ます。出版社が閉まっているので明日折り返し連絡だそうだ。簡単に店内を回り、買う予定だった文庫二冊と、立ち読みで衝動買いの文庫を一冊購入する。
 店を出たら途端に後悔した。予定外の文庫は返品も考えた。だがともかくCD屋へ行く。しかし目的の商品はバージョン違いだった。閉店五分前で、結局購入の決断はできなかった。
 もう、次の書店では自棄になって、最大音量で周囲を遮断し、際どい本の立ち読みに耽る。そして閉店に追いやられるようにハードカバーを二冊レジへ。ここまで買うはずではなかった。
 夜の闇で絶望し、冒頭の無気力へと至る。

 ポケットからPHSを取り出し、Googleに接続する。「風俗 熟女」と入力する。
 なんのことはない、さっき立ち読みした本に「熟女風俗は男が格好つけずに射精できる癒しの場所なのだ」と書いてあったからだ。しかしこんなものは初めてなので、適当にサイトを選び、モバイル版にアクセスする。通信速度の関係で画像表示はOFFのまま。
 エリア検索があったので、とりあえずは身近な地域を選択する。いくつか見てみて、失敗を悟った。これは「素人の主婦が旦那のいない間に働く」というシステムが多い都合上、昼間の営業が主で、こんな夜遅くには終わってしまうのだ。しかも大半がデリバリーヘルス。これは、家族と同居の身には、料金に加えて「ホテル代」という厄介なものがついてくる。財布を確認すると、残り二万ジャスト。もう一万も使った計算になる。
 ひきこもりにとっては、小遣い日は祝祭の日なのだ。無収入なので、なおさらのこと。それまで乏しい予算でやりくりしていたので、どうにも反動が出てしまう。煙草のカートン買いという「強制出費」もあったし。
 サイトをいろいろと回ってみて、全財産を注ぎ込めば何とかなりそうなお店を一軒だけ見つけたが、そこへ電話する気にはならなかった。厳密には童貞ではないが、限りなくそれに近いので、気後れしてしまうのだ。
 それに、裏についていそうな男のスタッフが、怖い。対人恐怖症なのでなおさらだ。慣れていない、というよりもまるで未知のサービスについて聞くために電話をかけるなど、酒の力を借りてもなお、出来なかった。
 結局、コミック新刊も予約したことだし、という「逃げ」が働く。

 ここがもし繁華街だったら。
 立ちんぼの女性に声をかけることもできただろう。
 うずくまっているだけで、ひょっとすると親切な女性が声をかけてくれて、何がしかのアバンチュールがあったかも知れない。
 あるいは水辺などの、センチメンタルになりやすいトポスであれば。同じく失意や複雑な事情を抱えた女性との偶然の邂逅があったかも知れない。
 まあ、何もないのが普通だろうけれど。

 だが、こんなベッドタウンの各駅停車の駅では無理だ。土地柄かもともと「その種の店」が軒を並べているような街でもない。帰宅だけが目的の疲れた人たちばかりだ。
 情事? 無理だ。諦めよう。
 自慰のための何かを買う? 嫌だ。むなしすぎる。

 三番手の選択肢として、深夜まで中古コミックやトレーディングカードを扱っている店へ行くことも考えていたので、気持ちを切り替えて立ち上がる。最終バスの一つ前、店まで一本で行けるバスが来たのだ。
(ちなみに二番手は、そう簡単に帰れない場所へ……繁華街か水辺近くの駅まで行くという選択)
 並んでいる乗客が乗り終えてから、ドアが閉まる直前に乗る。
 一つだけあった空き座席に、座った。
 ずっとイヤホンで大音量なので、今どこを走っているのかわからない。
 だが、鞄が重いこと、疲労が大きいことを考えて、本当に自分は店に行きたいのか、わからなくなってきた。カードやマンガを買い込んで、重い荷物を抱えて徒歩で帰宅するのか? 結局は帰るのに、あえてこの時間に遠い店へ行くのか?

 頭にちらついていたのは、出掛けに母に放った言葉。
「こんなにおいしそうなカツが待ってるんだから、すぐに帰るよ」
 そして、前日医者に言われた言葉。
「家が苦痛だろうと、弟や妹の態度がどうあろうと、逆に『僕はこの家で生きていくんだ!』と思い切って発想を転換してみるのもいいんじゃないでしょうか」
 そう。そして気がついたら、家の最寄りのバス停で降りていた。

 だが、素直に帰る気にはなれず、かと言って二十四時間営業のファミレスなどへ行く気にもならず、やはり路上にへたりこんでしまった。
 煙草をふかして、つらつらとよしなしごとを考える。
 今ここで、PHSで小説を書くのもいいんじゃないだろうか、とかね。

 しかし結局は立ち上がって歩き、家の玄関前の扉を開けた。
 すると、なんと玄関のドアが開き、寝巻き姿の母親が姿を現した。
 驚いて声をかける。
「なんで俺が帰ってくるって解ったの」
「え? 自転車を片づけようと思って……」
 ちょうど聴いていた曲の影響もあって、私は祝福を受けたような気がした。
 玄関を開け、そっと「ただいま」と言う。
 手を洗ってうがいをし、鞄や手持ち品をかるく整理して、食卓へ。
 おいしそうなカツと唐揚げが並んでいた。

(了)
2006.10.25 (10.26 02:20 a.m.) 2814文字

テーマ:ひきこもり - ジャンル:心と身体



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By 風早 瑞樹



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プロフィール

風早 瑞樹

Author:風早 瑞樹

HN変更しました。
結局はこの名でずっと認知されているので。
(以前の名義は「Amethyst」)

基本:
千葉県在住。1979.1.11生。
職歴なしの社会的ひきこもり
精神科通院中。病名は不明。
基本は「鬱」で「軽躁」「PD」も。
概ね異性愛者(笑)の男性。
県立東○飾高校卒。
某私立大学哲学科4年次中退。
人格の核は、永遠のSF少年。

略歴:
 幼時より母の信仰する某真光系教団の下で育ち、世俗に無関心で「浮いた」少年時代を過ごす。
 運動音痴だが、中学時代は陸上部に所属。
 高校・大学と文芸サークル等で編集長を務めるが、人間関係の問題で辞める。
 高2で信仰と絶縁。精神的危機から哲学を志す。
 漫画を読み始めたのもこの頃。2002年までコミケには毎回参加。
 遊戯王OCGは弟の影響。
 1999年に20歳で自殺する前提で生きてきたが、踏み切れず。
 自暴自棄ながらもある意味活動的に過ごしていたが、
 とある事件をきっかけに、ほぼ寝たきりの毎日となる。

サイト名の由来:
アイザック・アシモフ『ファウンデーションと地球』他より。
惑星ソラリアは、万事をロボットに任せて他人と会う必要がない「ひきこもりの理想郷」。
ただ、現在の私は少々ひきこもりに否定的。
生活リズムを整え、毎日歩くことから、社会参加へ向けて試行錯誤中。
 
■人生を変えた本
『三惑星連合軍』E.E.スミス
『一九八四年』G.オーウェル
『ヴァリス』P.K.ディック
『高校時代』三田誠広
『真夜中の天使』栗本薫

■人生を変えた音楽
'92年紅白(中1当時)の


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