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『アンネセセリ-UNNECESSARY』
『アンネセセリ-UNNECESSARY』 PN:無名義 2001.01.20 6289字
 当時交流のあった、同名の素敵なサイト様に捧げた小説です。
 人生に絶望した中3の女の子の前に、不思議な自称「天使」が現れて……。生きづらさ系の少女小説です。私が書いてきた中では、最も「ライトノベル」に近い作品かも?(^^;

UNNECESSARY


 ……あたしは、最悪の人間だ。生きていちゃいけなかったんだ。そう思って、あの日、学校の屋上から飛び降りたのに。
 こいつに助けられて、あたしは、傷ひとつ負わずこの世界にまだ、いる。
 目の前には、色素のうすい長い髪を風にそよがせて、穏やかに微笑を浮かべた、彼、がいる。
 なんと呼んだらいいのか、こいつは。いまだにわからない。ただ一つ、確実に言えるのは、奴が人間じゃない、ってことだけだ。

 あたしは瑞穂。中学3年生。受験生だ。この夏に吹奏楽部も引退して、本格的に受験勉強に入る……予定だ。
 ……こいつさえいなければ。
 こいつの名前は、今は「祐輝」と名乗っている。本名は「イェアシエル」とかいうらしい。自称「天使」だ。いや、もう翼はないから「元」天使、かな。
 あの日、夕方ももう遅い夕暮れに、あたしは学校の屋上のフェンスを越えた。覚悟を決めて。頭の中で、みんなに、バイバイ、を言って。死んだらどうなるんだろう、とは、ちらと思ったけれど、あたしは、死んだらなにも残らない、と信じていたから、これで、すべてお終い。あたしの人生、リセットできる、って思ってた。
 ……で、虚空に向かって、思い切ってからだを投げたというのに。あたしの体は、ぱぁっと光に包まれたかと思うと、誰かの腕に抱きかかえられて、コンクリで打ち固めた地面にトン、とそいつが足をついたかと思うと、一足飛びに元の屋上に戻ってた。
 何が起こったのか全然わからなくて。しばらくは茫然としてたね。あたし。そいつが声をかけてくるまで。
「瑞穂さん。よかった、生きてるね。間に合ってよかった」
 はぁ? いいわけないだろこの野郎。あたしってば人生で最大の覚悟を決めて飛び降り自殺を敢行したのに。呆気なく邪魔してくれやがって。……でも、心の片隅では、やっぱりどこか安堵してた。
 なんだ、生きてるよ、あたし。
 そのジジツを認識すると、ようやくそいつを観察する余裕が出てきた。なんか、銀色の髪がきらきら光ってるよ。日本人じゃないな。よく見たら背中に翼まで生えてるじゃん。人間でもないよ。……天使、か?
 ここまで一瞬にして考えると、そいつは深々と一礼をして、こう言った。
「初めまして。ぼくは天使のイェアシエル。あなたが、前々から死にたがっていたのは、知ってました。でも、こんなギリギリになるまで助けに来られなくて、ごめんなさい」
 日本語をしゃべったよ。ってさっきもか。天使、ってのはいろんな言葉が話せるもんなんだろうか。
 そんなことはどうでもいいけど。とにかく助かって、ホッとして、それがまたムカついて、そいつに食ってかかった。
「あんた、なんなのよ。何の権利があって、あたしが死ぬのを邪魔したわけ?」
「それだけの元気があれば、もう大丈夫だね。よろしく、瑞穂さん」
 よろしく、じゃねぇよ。何か微笑まで浮かべてるし。……いけ好かない。
「答えになってないよ。他にも自殺してる奴はいっぱいいるだろう? なんでそいつらを助けないで、あたしを助けるんだ」
「……本当に、天使だったころのことを、忘れちゃってるんだね。セシリア。ぼくとあなたは、パートナーだったからだよ。むかし、ね」
「知らないよ、そんなこと。誰だよ、セシリア、って。あぁもういい、頭痛くなってきた。夢なのかな、これ。夢なら覚めてくれよ」
 ……それにしては妙にリアルだけど。
「夢じゃないよ。あなたは、本当に自殺しようとしてて、ぼくが、天使の翼でそれを止めたんだ。瑞穂さん、どうして、死にたかったの? よかったら、教えてくれないかな」
 ……あんたに教える義理はないね。そう思ったけど、あたしは混乱していたから、そいつの質問に答えてしまった。「あたしが、不要な人間だからだよ。こんな最悪な人間は、生きていていいわけないもの」
 するとそいつは、重々しくうなづくと、優しい声音でこう言った。
「世の中に、いらない人間なんて、いないよ。みんな、かけがえのない尊さをもって、この世界に生まれてきたんだ。それを、むげに投げ出さないで。つらかったら、ぼくがいつでも助けてあげるからさ」
「そんな助けなんか、いらないよ。もう一度飛び降りてやる」
 そう勇ましく宣言して、フェンスの前に立ったけれど。足がふるえて、越えられなかった。
 ……さっき安心したのがいけなかったんだ。なけなしの勇気を振りしぼったのに。もうあたしは、死ぬことさえ、できない。
 そう思うと無性に涙がこぼれた。
 気がつくと、そいつの肩にからだをあずけて、こぶしで相手を殴りながら、しゃくりあげていた。
「なんで助けたりしたんだよぅ。……これで、生きてるつらさから逃げられると思ってたのに。……バカ、バカ、バカ!」
「ごめん……ごめんよ。ぼくは、まだまだあなたの苦しみを充分にはわかっていないんだね。……決めた。ぼくも『堕天』するよ。人間として生きることのつらさを、身をもって知るために」
 そう言うと、そいつは、背中の翼を引きちぎった。
 純白の衣装が深紅に染まる。
 ……と、翼が、宙に白く溶けた。
 残ったのは、一枚の羽根だけ。
 その羽根を手に取ると、「これは、『天使の羽根』。一つだけ、何でも願いをかなえてくれるよ。あなたに、預けておくから、ここぞという時には、使って」
 そう言って羽根をあたしに手渡した。
「でも……その、肩の傷」
「ああ、これは大丈夫だよ。『堕天』の時に、少し痛むだけなんだ。そのうちに、傷は塞がって、普通の人間と変わらなくなる。……そうだな、この日本で生きるなら髪の色も変えなくちゃだな。名前も、変えよう。えっと、『祐輝』。そう名乗ることにするよ」
「……祐輝、さん。そう。……でも、これから、どうするの? 住むところも、食べるものもないじゃない」
「それは、大丈夫。しばらくは、天使の理力が使えるから、どうとでもなるよ。それより、あなたの方が、心配だな。お家に送り届けてあげるよ」
 そう、そいつが言った途端に、からだが宙に浮いた。一瞬、気を失って……気がつくと、見慣れた自分の部屋に帰ってきていた。
 夢だったのかなぁ、って一瞬思ったけれど、夢じゃない証拠に、手の中には例の「天使の羽根」がしっかりと存在していた。

 ……それが、3日前のことだ。
 で、今、目の前に、こいつがいる。部活が終わって、何とはなしにまた屋上に来てみると(音楽室から近いのだ)、「祐輝」の奴がまた、いて。こちらを見つけて、微笑んだ。
 咄嗟に感じたのは、また厄介な奴がきた、という気持ちと、どこか安心するような、帰ってきたような気持ち。なんでそんな風に感じたのかわからなくてやっぱりムカついて、気がついたら、怒鳴ってた。
「なんであんたがこんなトコにいるのよ!」
「え? なんとなく。ここにいたら、会えるような気がしたから。お家に邪魔するわけにはいかないしね。……それより、学ラン、似合う?」
 そう、そいつは、うちの制服を着ていた。何か感じが違うと思ったら、そのせいか。いや、翼もなくて、髪も薄い褐色の髪に変わってる。これなら何とか日本人で通せるかも。
 ……じゃなくて。
「で、何の用?」
「ご挨拶だなぁ。あなたに会いたかった、それだけだよ。もっと言えば、何か助けになれないかな、と思って」
 ……またいけしゃあしゃあと。
 でも、そのペースに乗るつもりはなかったので、あたしは昨日カッターの真新しい替え刃で傷をつけた手首を見せてやった。
「言っとくけど、死にたい気持ちは変わらないからね。こうやって、手首も切ってる。気持ちいいよ。シュッて一瞬痛みが走ったかと思うと、白い線が浮きでて、それからじわじわと赤い血が流れ出してくるんだ。ああ、あたしの血だぁ。とか思って、なんか安心する。……血を見るのが好きみたい、あたし」
「……また、恐いことを言う。そうやって、自分を傷つけて。でも、よかったよ。それは、生きてることの証しだもんね。血が流れてることも。それを見て安心することも」
「なぁんかそういう風にとられると心外だなぁ。あんた、やっぱムカつくよ」
「悲しいな。セシリア」
「だぁから、その名前であたしを呼ぶなっ!」
 ……ああやっぱりこいつのペースに巻き込まれちゃってる。なんとたたみかけてやろうかと思っていると、そいつが不意に、話題を変えた。
「ところで『天使の羽根』でかなえたい願いごとは見つかった? それとも、なにかぼくにしてほしいこととか。ある?」
「あたしを消して」
「……いや、それ以外で」
「うーん、そうだなぁ。……じゃあ、両親を殺してくれる?」
 と、そいつは押し黙った。ハッと、こちらを見返してくる。一瞬、撲たれるか、と思ったけど、そいつは、あたしに平手打ちを食わしたりはしなかった。
「……どうして、そう願うの?」
 だって。……だって、親がいるせいで、あたしは本当の親友と出会えなくなった。
「両親が、親がね、あたしはもう受験生なんだから、って、ネットをやらせてくれなくなったの。今まで、楽しいことも、つらいことも、何でも話せたのは、学校の友達でも、姉でも、親でもなくて、メル友。ネットでだけ、つながってる関係だった。それなのに、一方的にそれを切断されて。……許せないよ」
「……だから、生きることも、つらくなったんだね」
「そうだよ! 受験が終わるまで、って耐えるつもりだったんだけどさ。なんか片思いの彼はあたしの友達とつきあってるし、担任はうるさいし、クラスの男子にはいじめられるしさぁ。やってられないよ。どこにも『居場所』がないんだよ。あたしはいらない人間なんだよ!」
「そうなんだ。だから、つらいんだ。ありがとう、話してくれて。……でも、でもね、世の中に、不必要な人間なんか、いないんだよ。かみさまは、一人一人に、その人にしかできない使命をお与えになって、人々をお造りになられたんだ。だから、あなたも、きっと、あなたにしかできない、そこであなたが輝ける、そんな舞台が用意されているはずだよ。だから、そんなに簡単に、死んだりしないで」
「天使はお気楽ね。そうやって、ありえないことを簡単に信じることができて」
「なんでありえないの?」
「だって、こんな世の中じゃ……もういいよ、あんたと話してると、頭痛くなってくる!」
 そうしてあたしは屋上のドアから一気に駆けおりて。家へ向かって走った。でも、家に行っても、居場所なんかどこにもない。
 あたしは、行く先を変えた。

 ……湖のほとり。あたしが、さみしくなった時に、心をあずけに、いつもくる場所。
 湖面のさざなみを眺めて。水を見ていると、なんか心が安らいでくる。人間の体はそのほとんどが水でできてるからかな、とか、理科の授業で習った知識をなんとなく思い出しながら。
 ここまでは、あいつも追ってこないだろう。なんたって、もう翼はないんだし。とか思って、からだを大の字にのばして、くつろいでた。
 そろそろ、陽も落ちる。夕暮れの湖畔も、風情があって、いいものだ。このまま入水自殺するのもいいな、とか思って、この湖はどのくらいの深さなんだろう、なんて思ってたら。
 不意に、頭上から声をかけられた。
「よかった。ここに、いた。瑞穂さん」
 ……あいつだ。とうとう、ここまで、追ってきやがったか。でも、どうやって?
「お姉さんに訊いたんだ。学校の友達です、って言って、こんな時、瑞穂さんが行きそうな場所の心当たりはありますか、って」
 そうか、姉貴か。秘密の場所、だったけど、先にこの場所を発見したのは、姉。あたしが、さみしくなるとここにくることも、姉は知ってる。
「……で、何しにここに来たの」
 できるだけ冷ややかな声音で。言ってやった。下手なことを言いやがったら、ぶっとばすぞ、くらいの気持ちで。そしたら。
「……わかったよ。ご両親を、殺してあげる。それで、瑞穂さんの心が少しは晴れるというのなら。大事な、魂の叫び声を、聴いてあげられなくて、綺麗事で誤魔化そうとしてしまって、ごめん。あなたにとっては、とても大切な頼み事だったんだよね」
 はあ? 何、言ってるの、こいつ。でも、本当に天使が人を殺せるのか、見てみたい気もした。
「そうだよ。あたしを追い詰めるのは、いつも、両親。今すぐ大人になって奴らの庇護の傘から抜け出せるわけでもないし。殺してよ。天使に二言はないわよね?」
「ああ。今から、瑞穂さんのお家に行くよ。約束は、守る」
「じゃあ、あたしはここで待ってるわ。きっとよ。本当に、両親を、殺ってくれるんでしょうね」
「ああ」
 そして彼は、暗い顔で、もと来た方向へ、歩いていった。

 あたしは、タカをくくってたね。本当に、元・天使に人殺しなんかできるわけないと。でも、だんだん、不安になってきた。奴は、人間の世界の常識なんか、知らないんじゃないだろうか。本当に、殺しちゃうかもしれない。そう、思って、家に引き返すことにした。
 今の時間は、姉は塾へ行ってて、留守だ。父親は、そろそろ帰って来てるだろう。母も家にいる。ということは、姉は惨劇の現場を見ることはないわけだ。
 そこまで考えて、バカらしくなった。まさか、ねぇ。本当に、そんなに簡単に人を殺すなんて。ありえないよ。……でも、まさか。
 なんか混乱したまま、それでも足早に、あたしは家に向かった。

 家に駆けつけると、血まみれになった「祐輝」がいた。あたしは悲鳴をあげる。そのまま、家の中へと駆け込んだ。
 無残に首を切り裂かれた、母の死体。胸を刺された、父の死体。食卓には、今夜の夕ごはんが並んでいる。
 そこまで見やると、あたしは吐き気をこらえて、外へ逃げ出した。祐輝を問い詰める。
「なんであんなことしたのよ!」
「え、だって、あなたが本当に望んでることだったから。……少しは、気が、晴れた?」
 こんなことをした後でも、祐輝の声は、限りなく優しい。なんか、イッちゃってるみたいな感じ。
「だからって、そんな簡単に人を殺す? あんた、天使じゃなかったの?」
「『堕天』した天使は、倫理感が極端に希薄になるんだ。天使の優しさはもとのまま。だから、あなたのために、あんなことだって、できる。瑞穂さんのことを、本当に、想ってたから、できたんだよ」
「………」
 その、想い、は確かにすごいわ。それは認めよう。……でも。
 両親を失って、あたしはどうやって生きていけばいいのよ。そんなことすらもわからないのかしら。この堕天使は。
 ……そうだ、あの、天使の羽根。今こそ、あれを、使う時だ。ポケットを探る。……ない。そうだ、あたしの部屋の引き出しだ。
 無言で祐輝を押しのけて、家へ入る。……でも、何と、願えば、いいのだろう。
 そうだ、時を戻そう。時を戻せばいい。いつに? 決まっている。あたしが自殺未遂をした、あの日の屋上へ、だ。あたしの記憶は残したまま。そこで、彼が『堕天』するのをやめさせる。あんたの想いは見届けた。もう、いいよ。あたしは、耐えていく。生きていくことにするよ。そして、あいつのお説教も黙って聴いてやる。この世に不必要な人間はいない、だったか? それを信じてあげることにする。そうすれば、すべて丸く収まるだろう。
 そこまで一気に考えて、あたしは、家の中へ入り、両親の死体を見ないようにして、自分の部屋へ入った。
 天使の羽根を見つける。
 羽根は、うすく輝いて……あたしの願いを、のみこんだ。
 そう、これでいい。これで……
 時を越えながら、あたしはほのかに、涙ぐんでいた。
(了)

2001.01.20

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

[2001/01/20 00:00] | 小説集 | page top
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