スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[--/--/-- --:--] | スポンサー広告 | page top
『Highschool days』
『Highschool days』 PN:風早 瑞樹 2003.01.15 5985字
 高校時代の実体験を基に、多少都合よく改変した(笑)私小説風の学園恋愛小説です。
 三田誠広の『高校時代』へのオマージュの要素もありますが……ぶっちゃけ願望充足ですね。この結末をリアルで実現した友人は、本当に凄いと思います(^^;

Highschool days
風早 瑞樹


 代表委員会の閉会が告げられ、生徒会の顧問の先生による講評が終わって、委員会は解散した。
 わたしは、ふーっと伸びをすると、立ち上がって、左隣で帰りの支度をしている水城先輩に声をかけた。
「あの、水城先輩、ちょっといいですか?」
「あ? なんだ? 春風」
「これから部室に寄っていきませんか? 水城先輩、せっかく復学されて文芸部にもまた入ってくださったのに、全然顔を出さないから、先輩方さびしがってますよ」
「知ったことか。原稿だけ、提出すればいいんだろ」
「そうはいきませんよ。先輩のこと、みんな心配してるんですから」
「ちっ、しゃーねーな。これから帰って、原稿の仕上げをしようと思ってたのに。お前編集長なんだから、部員の原稿が遅れたら困るだろうが。ま、今回だけだぜ」
「ありがとうございます。わたしとしては、あんなことを言われたあとで先輩に声をかけるのはいやだったんですけどね」
「なら誘わなければいいだろうに」
「永島先輩に頼まれたんですよ。ちょっとは顔出してくれってあいつに言ってこい、って。永島先輩とは休学前から仲がよかったらしいじゃないですか。予備校が始まるまで部室で待ってるから、って。今もきっと待ってますよ」
「そうか。あいつが俺を、な。わかった。行くよ」
 荷物をまとめた水城先輩が立ち上がる。わたしも急いで書類や筆箱をしまって、後を追いかけた。

 水城先輩は、先々代の編集長だ。先代の編集長が永島先輩。そして、わたしが現在の文芸部の編集長だ。代々の編集長と部長は、二年生がつとめることになっている。
 わたしが入学する前の秋、水城先輩は休学した。そして、留年して二回目の二年生をやった後、無事三年に進級して、文芸部にも復帰した。それが今年の春。
 永島先輩は、「先輩だった水城さんが今は同学年だもんな。妙な気持ちだぜ」と言っていた。
 でもわたしにとっては、二年上も一年上も大して変わらない気がする。わたしは、「文芸部の水城先輩」は、今年になってからしか知らないのだから。

 部室についた。明かりがついていて、鍵があいていることがわかる。永島先輩が予備校の予習でもしているのだろう。ノックをして、部室に入った。
 永島先輩が顔を上げて出迎えてくれた。部室にいるのは先輩一人らしい。
「おう、来たか。よしよし、ちゃんと水城さんを連れてきたな、春風さん。で、代表委員会はどうだった?」
「どうもこうも。水城先輩にいじめられっぱなしでしたよ、わたしは」
 靴を脱ぎながら、わたしが言う。
「ふふ、そうか。水城さんもこんな可愛い女の子を苛めるなんて、人が悪い」
 永島先輩が笑いながら言った。
「あのなー。俺は、議論をしてただけだぜ? 人聞きの悪いこと言わないでくれ」
 水城先輩も乱雑に靴を脱ぎ捨てると、畳の敷かれた部室に上がって、腰をおろした。わたしは入り口近くに座る。
「でもー。『さっきの2-Fさんの意見は、少々感情に走りすぎているかと思います』とか言うんですよー?」
「俺は事実を述べたまでだ。感情論に走りすぎなんだ、お前は。少しは勉強しろ」
「勉強って?」
「岩波の『世界』を読むとかな。前の特集、読んでないだろ。日の丸君が代問題を論じるなら、同時代の論客の意見くらい押さえておけ。せっかく図書室に揃ってるんだから」
「なんですか? それ」
「左の雑誌だよ。永島も読んでるだろ?」
「はい。社会研究部ですからね、ぼくは。水城先輩はたしか右でしたよね」
「ああ。でもここは左の学校だからなあ、分が悪いぜ。『諸君!』も図書室に置いてないし。まあ『文藝春秋』はおいてあるけどな」
 右、左? なんのこと? 混乱してわたしは尋ねた。
「えっとぉ、さっきから言っている、右とか左って、どういうことですか?」
 水城先輩はやれやれと首を振って、永島先輩に首をしゃくった。永島先輩が苦笑して説明してくれた。
「簡単にいうと、自民党とかの保守派の勢力が『右』。社会党や共産党なんかが『左』。右翼、左翼とか、聞いたことないかな? なんとなくわかる?」
「あ……なるほど。はい。なんとなくわかりました」
 水城先輩が口を挟んだ。
「代表委員会で議論をさかんにやってる割に意外と無知なんだからな、春風は。その分だと、岩波文庫なんかも読んだことないだろう」
「ええ……面目ありません」
「知的な高校生の必須アイテムだぜ? じゃあ、世界の名作文学はどうなんだ? 編集長サマ。スタンダールとかドストエフスキーとかさ」
「読んだことないですぅ……」
 くぅ~っ。散々委員会ではケチつけてくれるし、おまけにこんなことを。こいつなんか、大っ嫌い!
「その辺で勘弁してやれよ、水城さん。彼女、困ってるじゃないか。なつみちゃんも、気にしなくていいよ」
「あ……はい」
 わたしはうなずいたが、思わずきっと水城先輩を睨んでしまった。先輩は苦笑して肩をすくめた。
「嫌われたかな。ごめんな。だからって原稿を不掲載にはしないでくれよ」
「わかってますよ!」
 声が尖ってしまう。
「あ……不掲載といえば、水城先輩が休学した理由に、会誌委員会とのトラブルがありましたね」
「ああ。俺の原稿を猥褻だと断じやがった」
「ぼくはそうは思いませんでしたけどね。ぼくが編集長を引き継いだあと、ちゃんと部誌には載せましたからね。六十二号、見てくれましたか?」
「あれはお前の原稿をトリに持ってくればよかったのに。一番長い原稿だったんだから。気を遣ったな?」
「ばれてましたか。ただ、やはり今は亡き先輩の遺稿だと思うと」
「勝手に殺すな」
「いや、ははは」
 会話が途切れたのを見計らって、口をはさむ。
「それって、どんな作品なんですか?」
「あれ、なつみちゃんは知らなかったっけ。水城さんの名作だよ」
「何が名作だ」
「タイトルは『肉体的存在を嫌悪した男』。テレパシーと去勢手術がテーマなんだ」
「去勢……って?」
「ああ。生殖器の除去さ。犬や猫に行われているだろう。それを、主人公の青年は、性的欲望を消し去るために医師に頼むんだ」
「へえ……」
「そういう真面目なテーマに取り組んだ作品だったのに、たった一つのシーンのために『生徒会誌には相応しくありません』だもんな。頭にくるぜ」
「ふーん。水城先輩って、そういうのを書いてたんですね。次の作品も猥褻ですか?」
 冗談にまぎらせて聞いてみる。
「誤解するな。そういう作品ばかりじゃないぞ。だが……そうだな、今書いてるのも、猥褻というか、性的描写ははずせない。なにせ、性的虐待のトラウマがテーマだからな」
「シリアスですねぇ」
「タイトルは『CRUCIFY』。XJAPANの曲『CRUCIFY MY LOVE』からとっている。いずれ文壇に輝く名作になるであろう作品だ。今はまだ、断片の段階だけどな。将来は小説家、と昔から決めているんだ」
「へえ。楽しみです。もし本当にうちの高校から有名作家が輩出したらすごいですよね」
「俺の力量を見くびるなよ。まあ、読めばわかるさ」
「強気ですねぇ」
 まったく、鼻持ちならない自信家だ。この人は。
 と、永島先輩が言った。
「それなら、大丈夫ですね。久しぶりに水城さんの小説が読めるなぁ。完成前に、自殺なんかしないでくださいね」
「え、自殺……?」
 思わず口をはさんでしまう。
「大丈夫だ。今はまだ、死なない」
「なつみちゃん。水城さんはね、当時の彼女の目の前で、三号館の屋上のフェンスを越えたっていう伝説の持ち主なんだ」
「まさか、自殺未遂……?」
「結局飛び降りなかったらしいけどね。知らなかった?」
「はい」
「永島、てめえ、余計なことをベラベラと……」
「おっと、もう予備校の時間だ。ぼくはもう帰らなきゃ。じゃ、仲良くやってね、お二人さん」
「おい」
「冗談だよ。じゃね」
 荷物をまとめて、永島先輩が立ち上がる。あわててわたしは口をはさむ。こんな奴と二人きりになんてなりたくない。
「あ、わたしたちも帰ります。鍵の管理もありますし。一緒に帰りましょう」
「そお? じゃ、一緒に帰るか。水城さんも、それでいいですか?」
「ああ。構わない」
 水城先輩も立ち上がった。わたしは、部室の戸締まりを確認して、鍵を手にとって、一番最後に部室を出た。
 帰り道。わたしは二人のうしろについて駅まで一緒に歩いた。二人は久々に話すからなのか、わたしにはわからない難しい言葉を使って話が弾んでいる。
 なんとなく疎外感を覚えて、駅で先輩たちと別れた。

 数日後、部室を訪れると、机にぶあつい封筒が置いてあった。
「陽炎66号原稿 水城智也」と書いてある。
 まだ締切には全然早いというのに。例の『CRUCIFY』だろうか。
 急いで部室ノートを見る。やはりそうだ。水城先輩が、わたし宛に原稿を託していったのだ。
 封筒をあける。中をあらためると、裏に通し番号が振ってある。えっと……32枚。部誌の1ページは千文字だから、32000字。原稿用紙で80枚か。すごいな。
 なんとなく読み始めた。
 たちまちヒロインの心情に引き込まれてしまって、一気に読み終わった。
 しばし、呆然。
 水城先輩って、すごい。
 こんなすごい小説が書けるなんて。たしかに、断片形式だし、荒削りだが、魂を打つなにかがある。
 あの大言壮語も自信家ぶりも、それを裏打ちするものがあったからか。
 ふと我に返って、封筒に原稿を丁寧に入れ直し、鞄にしまった。
 部室を出て、駅に着く。
 そうだ、先輩の言っていたXJAPANの曲も、聴いてみよう。
 そしてわたしはレコード店に入り、シングルCDを購入して、家に帰った。
 部誌のトップを飾る原稿は、これにしよう。
 そんな決意がいつのまにか固まっていた。

 一学期が終わり、締切をかなり過ぎて、全員の原稿が集まった。
 目次などのページを作り、編集作業を終わらせる。
 一・二年生に召集をかけて、印刷と製本が終わったのは、夏休みが終わるころだった。

 文化祭の日がきた。文芸部もスペースをとって、部誌の陽炎を売る。
 三年生も、売り子のローテーションに入っている。OBの人たちとも話が弾んでいるみたいだったが、水城先輩は途中で帰ってしまった。
 なんとなく淋しく感じたのは、気のせいだろうか。

 その次の代表委員会は流会した。出席した委員の数が定足に足りなかったのだ。
 なんとなくぼうっとしていたら、隣の水城先輩から声をかけられた。
「どうした、春風。元気がないみたいだが?」
「いや、この学校の自治の伝統もすたれてきちゃってるのかなぁ、なんて考えちゃってねえ」
「気晴らしに行くか? 屋上にでも」
「え、まさか飛び降りる気?」
「おいおい。そんなことはしないさ。ただ風に吹かれてみたくなっただけだ。まあ、お前がいやなら、オレ一人で行くけど」
「行きますよ。一緒に行きましょう。心配だし」
「大丈夫だって」
 先輩は苦笑しながら鞄を肩から下げ、先に立って歩いていった。
 わたしもそのあとに続く。

「わぁ~~! 風が気持ちい~い!」
「だろ? よく来るんだ、ここには。保健室に行く、とか言ってな」
「あー。不良~~」
「そんなことはなんてことじゃないぜ?」
「え?」
 水城先輩は胸ポケットから何かを取り出した。シュボッという音が届く。
「あ~~! 煙草! 超不良!」
「いいだろ? これくらい。大目に見ろよ」
「もう。仕方ないわねぇ」
 沈黙。
 そうだ、小説の感想を伝えておかなければ。
「あ、あの……」
「どうした?」
「『CRUCIFY』素晴らしかったです。感動しました!」
「そうか。ありがとう。嬉しいな」
「イメージソングのXJAPANの曲も聴きましたよ! すごく切なくなりますね」
「うん。お前も気に入ってくれたのか。いいだろう、あれ」
「ええ」
 ふたたび沈黙。
 が、今度は沈黙を破ったのは先輩の方だった。
「あーあ、俺、身体売ろっかな~~」
「はっ!?」
「リッチな人妻とか、ゲイのおやじとかにさ。オレはとくにジャニーズ系とかじゃないけど、ルックスはイケてると思うぜ?」
「ダメですよ! 売春は、18歳未満は犯罪なんだよ!?」
「年齢くらいごまかせるさ。もうすぐ18だし。あーあ、そうすれば働かなくていいし、楽~~だなあ」
「そんな。危ないんだよ? エイズとかになっちゃったら、どうするの!?」
「それはそれで寿命だ。この世に未練はない」
「ダメですよ。水城先輩みたいに、才能のある人が、そんな簡単に死んだら」
「小説家になるって話か? 無理だよ。俺はそんなに才能はねえ。それに働けない身体だし、先の展望はねえんだよ」
「水城先輩は小説家の才能があります! あんなにすごい小説が書けるんですから。わたしが、断言します!」
「お前に云われてもなあ……」
「それに。例えば、先輩に好きな女の子がいて。その子が、売春する、なんて云ったら、先輩、すごく悲しくなりませんか?」
 水城先輩はふっと真顔に返ると、遠い眼をして、こたえた。
「ああ、すごく、哀しいな」
 わたしは一気に言った。
「だから、同じなんですよ。先輩のことを想っている子がいて、それで、こんな台詞を聞いたら、すごく悲しむに決まっているでしょう?」
 水城先輩はまた投げやりな態度に返って、言う。
「誰が、俺なんかを想ってくれるって? そんな女、想像もつかねえぜ」
「でも、いるんです」
「どこに?」
「……ここに」
 わたしは、ほほが赤らんでいるのを自覚しながら、それでも、きっ、と先輩の目を見つめてこたえた。
 数秒の、間。
「お前が!? バカも休み休み言え。だいたいおまえ、オレのこと嫌いじゃなかったか?」
「ついさっきまで、そうでした。でも、そんなことを云う先輩を放っておけません!」
「憐れみならよせ。だいたいお前、オレが養えるのか?」
「あんた一人くらい、このわたしが、やしなってみせるわっ! だから、もうそんな、投げやりなこと、言わないで! 悲しくなるから……!」
「おまえ……」
「……」
 ぽりぽりと、頭をかきながら、先輩は言った。
「女に養われるのは性に合わないんだがな……。ま、そんなに云うなら、やしなってくれ。これってすごく、ラッキーだし」
 はあ、と脱力する。
「お気楽ね。こんなにかわいい女の子が、勇気をふりしぼって告白したのに、それが返事?」
「ああ、ごめん、ありがとう。オレも、春風のこと、好きだよ。下の名前、なんつったっけ」
「なつみ」
「よし、なつみ、おまえは今日から、オレの女だ。光栄に思え!」
「……ったく、憎たらしい」
 そう言いつつも、笑みが自然にこぼれてしまうのを止めることはできなかった。つられて、先輩も笑い出す。
 ふたりでひとしきり、笑った後、なんとなくそのまま屋上にいて、夕陽を眺めていた。
 いつしか、自然に、わたしと先輩の手は、つながっていた。
(了)

2003.01.15

スポンサーサイト

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

[2003/01/15 00:00] | 小説集 | page top
| ホーム |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。