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『灰色の春』
『灰色の春』 PN:風早 瑞樹 2004.07.12 2850字
 PHSで書いたメンタル系悲恋小説です。文字制限のため、3回に分けてPCに送信し、一つの作品に仕上げました。
 ある意味「初めてのケータイ小説」かも知れません。PHSはたまに小説を書くのに使っていましたが、ここまで本格的ではなかったので。DDIポケット独自のコミュニティーにも配信しましたしね(笑)

灰色の春
風早 瑞樹


 水佳はゆっくりと振り返って、こう言った。
「いいわ。私と一緒に自殺してくれたら、つきあってあげる」
 桜の木の下。水佳の長い髪が、花吹雪とともにそよいでいる。
「え……。うん、わかった。永山さんがそう願うなら、そうするよ」
 思わず俺がそう言ってしまうと、水佳は破顔して、俺の手をとった。
「ありがと。そう言ってくれる人を、長い間探してたの。それと、もう彼女なんだから、水佳、でいいわよ」
「水佳……」心の中でいつも呼んでいた名を、口に上せる。
 そして、どちらからともなく、二人は抱き合っていた。

 長い片思いの末、水佳に「つきあってください」と告げたのは前日のこと。教室の掃除を終えて、偶然二人きりになったチャンスに、勇気を出して告白したのだ。
 水佳はしばらく沈黙してから、「わかった。考えておくわ。返事は明日の放課後、中庭の桜の木の下で」と言ったのだ。
 俺は晴れてOKをもらったわけだが……。
「──はぁ」思わず溜め息が洩れる。なぜ、心中なのだろう。いくら訊いても、水佳は笑ってはぐらかすだけだった。

 水佳とつきあい始めて、一ヶ月が経った。桜はすでに葉桜となり、新緑の季節になっていた。
 俺たちは何度もデートした。制服姿で駅への道を歩き、買い物をし、喫茶店で時を忘れて話をした。夜の公園でキスもした。
 決定的な転機が訪れたのは、水佳の家に招待されてからだった。

「──やっぱり、嫌な思いさせちゃったわね」
「いや……でも君が死を願う理由がわかったような気がするよ」
 水佳の家は、母子家庭だった。そして、水佳の母は、明らかに気が触れていて、俺の前でも平気で水佳に暴力をふるい、泣き喚くのだった。
「入院させたり、できないのか」
「無理なのよ。家の外では昔通りに振る舞うし、誰もわかってくれないの」
「医者を家に呼べば。俺みたいに」
「試したわ。駄目だった。昔看護婦をやってたせいか、医者の前ではしゃんとするのよ」
 言葉が見つからない。
「ねえ、だから、私と一緒に死んで? あ、母を殺してもらうのもいいかな。でも駄目ね。友則くんを犯罪者にさせるわけにはいかないもの」
「──俺はその方が気が楽だけど」
「駄目。そしたら友則くんが捕まってる間、私が淋しいもの」
 水佳が軽く俺の額を小突いた。

(やはり、心中しかないのか……)
 その疑問を胸に抱えながら、俺たちの日々は過ぎていった。
(だが、何か……。何か他にも方法はあるはずだ)
 そう思って、俺は行動した。往診もしている精神科医を探し当て、水佳の母の症状を事細かに話した。だが、医者はこう言った。
「話はよくわかったが、君は彼女の母の何だというのかね。家族でもない者の願いは聞けない。まあ、その水佳という子が自分から私のところに来てくれたら別だが」
 俺は一縷の希望を見出して、それを水佳に話した。
 だが、水佳は首を振った。
「一度試したと言ったでしょ。もうあんな思いはしたくない」
 ただ一人の肉親が、自分を自分と認めてくれない痛み。それは俺には計り知れないものがあるのだろう。
 俺は沈黙した。

 水佳はますます死への傾倒を深めていった。彼女のHPは死の象徴で埋め尽くされ、家に一人でいる時には「痛い系」の音楽を聴いているという。
 俺も水佳と同じ音楽を聴き、彼女のHPやリンクされている自殺系のHPなどを見ているうちに、死は甘美なものだ、といつのまにか思うようになっていた。
 デートは心中の計画を語ることで埋め尽くされ、残り短い命を惜しむようにキスを重ねた。

 だが俺は、楽しく恋人同士でいられた春の始めを思い返しては、なんとか抗う方法はないものかと考えを巡らせていた。
 しかしもう引き返せなかった。心中を喜々として語る水佳を見ると。すべてはあの取り引きを引き受けてつきあい始めた、あの日に始まるのだ。
 絶望的に強大な何かが、水佳の心を奪っている。そして俺は、それに勝てない。彼女の一番ではないのだ。
 それがひどく苦しかった。

 そして計画の当日がやってきた。
 郊外の、開発が中止されて寂れた団地の屋上に、俺と水佳は立っていた。
「これから私達、永遠に旅立つのよ」
「ああ」
 フェンスを越える。下を見下ろすと、何もかもが小さくて、目暈がした。
 つないだ手が震えて、気がつくと俺は手を離していた。
「ごめん……怖い」
「それは私も同じだよ? さあ、一緒に飛び降りよ?」
「ごめん……。どうしても俺、勇気が出ない」
 言いながら、俺はフェンスの内側に戻った。
「そう……」
 すべてを諦めきったような目で、水佳は俺を見た。
「じゃあ……。じゃあ」
 水佳が必死に懇願している。
「せめて、私の死を見届けて」
 その台詞は、空気を切ったように思えた。
「なんだって……」
 阿呆のような言葉しか出てこない。
「お願い。私の、最後のわがまま。友則くんは最後までよくしてくれたよ。でも、この続きは、本当は友則くんに強要しちゃいけなかったんだよね。だから……、だから」
 息を呑んで、俺は水佳の言葉の続きを待ち受ける。
「永遠に翔び立つ私を見届けて。決して、私を忘れないで。それが……私の最後の願い」
 水佳の気魄に呑まれて、俺はうなづいた。
「じゃ、さよなら」
 それは、今まで見た中で一番切ない眼で……。水佳は、今まで見た中で一番美しい表情をしていた。
 あっ、と思う間もなく水佳は身を翻し、水色のスカートのはためくさまが俺の目に残像として残り、落下してゆく水佳を見ている時間は本当に一瞬で……、そして地面が赤い色に染まった。

 階段を駆け降りる。水佳のもとへと急ぐ。一縷の望みに希望を託して、俺は水佳に呼びかけた。
「水佳……水佳」
 ゆさぶる。外傷はそんなに酷くない。ひょっとしたら……と思う。
 だが。水佳の鼓動は、……止まっていた。
「みずかっ!!!」
 動かない水佳の体を抱きしめる。涙がとめどなく溢れ出た。後悔と深い悲しみに、身を切られる思いになる。
 なんでこんなことになってしまったんだろう。俺とつきあわなければ、水佳は生きていたんじゃないのか。
 自分を責める言葉ばかりが渦巻く。

 しばらくして、だいぶ落ち着いてきた。水佳の死は死として、ようやく心が受け入れた。
 他の人間に水佳を触られるのは嫌だったが、自分一人ではどうしようもなかったので、警察を呼んだ。
 後のことは覚えていない。


 (桜、か……)
 もうそんな季節になったのかと、驚く。
 水佳が亡くなってから、もうすぐ一年だ。
 水佳の母は、俺が口を極めて罵倒したおかげか、今も病院にいるようだ。
(水佳、俺は水佳のことを忘れないよ。そう約束したもんな。あの時一緒に死んでやれなかった分、俺の心は永遠にお前のものだ。すまなかったな、水佳……)
 心を殺してただ惰性で生きてきた日々。今もなお、水佳の後を追おうという気持ちは消えないが、あの時でなければ意味がなかったことは理解している。
 俺は灰色の季節を、ずっと生きてゆくのだろう。
 水佳とともに。
(了)

2004.07.12

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

[2004/07/12 18:51] | 小説集 | page top
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