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『まなみの!お年賀ビデオレター☆』
『まなみの!お年賀ビデオレター☆』 PN:無名義 2010.01.01 2346字
 元日の早朝に携帯で書いたショートショートです。大風邪をひいた病み上がりに。
 正月に似つかわしくない不謹慎なブラックジョークですので、閲覧にはご注意を。mixiで読まされた友人諸兄は、たまったもんじゃなかったと思う。

「まなみの!お年賀ビデオレター☆」


 元日の朝。
 昔ながらの日本家屋に住む老夫婦は、慎ましく新年を寿ぎながら、もうあらかた年賀状は読み終え、穏やかにうつろいゆく長閑な時間を過ごしていた。
 呼び出しが鳴って老いた妻が立ち上がる。引き戸を開けて中庭の向こうの玄関口まで返事をすると、しばしのやり取りののち、興奮した面持ちでこうまくし立てた。
「ちょっと、おじいさん。夏っちゃんとこの、真奈美ちゃんからお年賀の小包が届いたわよ。いったい何が入っているのかしら」
 そして、いかにも待ちきれない、といった様子で封を開ける。
「まあ。これは……でーぶいでー、と言うのかしら? ラベルに『お年賀☆ビデオレター』と書いてあるわ」
「どれ、見せてみなさい」
 夫がケースを受け取って検分する。
「ふむ。これはどうやら、去年買ったあの機械で見られるようだな。パソコンでも大丈夫だろうが……せっかくだから居間で見よう」
「それがいいですよ、おじいさん!」
 妻の急いた様子に苦笑いしつつも手早く配線を整えると、夫婦そろってのビデオレター観賞が始まった。


「まなみの!」『お年賀』「ビデオレター☆」
 いかにも手作りといったほのぼのしたタイトル映像に合わせて、愛する孫と愛娘の夏子、夫の智之の声が唱和する。

「おじいちゃん、おばあちゃん、こんにちは! ……じゃなかった、あけましておめでとうございます!」
 孫娘の元気な声に合わせて、こちらは画面を見つめながら、律儀に年始の挨拶を返す。
『あけましておめでとうございます』

 真奈美が画面の中でくるっと一回転した。赤いランドセルが背中に映える。
「今朝起きたらねぇ! 枕元に、サンタさんからこのランドセルがプレゼントに届いてたんだ! もうちょ→嬉しかったぁ! でもでもパパとママったらね、まなみに、おじいちゃんとおばあちゃんにもお礼言いなさい、って言うんだょぉ? プレゼントくれたのはサンタさんなのに、おかしなパパとママだよね!」
 画面のこちら側では、老夫妻が自然と笑顔になっていた。おそらく入学祝いに買ってやった、あのランドセルだろう。そういえばクリスマスの時期だったか。夏子たちも味な真似をする。

「おじいちゃんとおばあちゃんも長生きしてね! おもちを喉に詰まらせたりしちゃ、めっ! だょぉ?」
『はいはい、気をつけます』
 期せずして唱和した互いの声に、老夫妻は苦笑を洩らした。――だが。

「だけど、先にあの世に行っちゃったりしたら、とってもとっても寂しいよね。まなみも、とってもとっても寂しい。だから、どうしたらいいか、いっぱいいっぱい考えたんだ。それでようやく思いついたの。

 まなみが、先にあの世に行って、待っていればいいんだぁって。そうしたら、おじいちゃんたちも、寂しくないよね?

 さよなら。あっちで、待ってるね!」


 とびっきりの笑顔で。
 そんなことを言った真奈美は。
 あっと言う間もなく車道に飛び出し。
 交錯する悲鳴や耳障りなブレーキ音の中で――。
 赤い血飛沫となって、消えた。


 場面は変わって、葬式会場。
 真奈美の遺影にズームインすると、全面セピア色に切り替わり、悲愴なBGMに乗せて、真奈美のモノローグが流れ始めた。

 ――ひろゆき、おじいちゃん。ママのパパであり、パパの本当のパパであり、私の本当のパパであり、そして、私の初めての人……ひろゆきさん。真奈美は、ひろゆきさんだけのものだよ。もう、絶対、どこにも行かないからね。呼んでくれれば、どこにでも行くし、こちらに来てくれれば、ずっと一緒にいる。安心して、こっちに来ていいよ。そして、またいっぱいいっぱい遊ぼう。ずっと、ずっと、待ってるからね!

 その独白を聞きながら、浩之は奇妙な既視感と違和感を覚えていた。
 (この話は……どこか、聞き覚えがある。確か酒の席で盛り上がった時に……そう、智之君に話したのだったか。それに、これは……似てはいるが、真奈美の声ではない。そうか、このDVDは……)
 真奈美(らしき声)のモノローグがしばらくして終わると、BGMの尺が長いのか、遺影を中心に生前の真奈美のアルバムが展開され始めた。
 徐々に真相に気づき始めた浩之だったが……。
「あなた。これはいったい、どういうことかしら?」
 隣には鬼のごとき形相の、悲憤慷慨に満ちた妻が居なすった。
「いや、これはだな――」
「あなたという人は。私というものがありながら。愛人の子に実の娘を嫁がせて? その実の娘をも寝取り? さらには孫娘にまで手を出したと。こういうことですか!」
「大変明晰かつ素早い読解で……っていやだから違う、これは」
「何が違うもんですか! これが何よりの証拠でしょう! 真奈美も可哀想に、あんな歳で……それは世を儚みたくもなるでしょうよ! あんなことまで言わさせられて……!」
「まあ、それに関しては、智之君はいい仕事をしたな」
 ――ひろゆきは致命的に対応を間違えた!
「それがまともな人間の口から出る言葉ですか! あなたのような人間の屑は、一遍死ねば良いんです!」
「待て、晶子、落ち着け! 落ち着いて良く見れば、お前でも不自然さに気づくだろう! とにかく落ち着いて俺の話を……ちょ、待て、それはさすがに……うわぁっ!」

 不意に老夫婦の家を襲った災厄は。
 ゴルフクラブで夫が撲殺され。
 急な動きで持病の発作を起こした妻が倒れるという、最悪な形で幕を閉じた。


 DVDの入っていた小包が風に舞う。
 それは実際には緩衝材が入っただけの大きめの封筒に過ぎず。
 宛名と差出人の書かれた面の裏側には「絶対にまずはおじいちゃんが一人で見ないとダメだぞ☆」と注記がされており。
 「通常のビデオレターとして観賞する方法」と書かれた紙がはらりと落ちた。
(了)

2010.01.01

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

[2010/01/01 10:00] | 小説集 | page top
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